黄ぐすみ、しわの原因⁈【糖化・AGEのメカニズム】

著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長

Contents
糖化とは
糖化(glycation)とは、糖がタンパク質と結びついて細胞などを劣化させる現象をいいます。ご飯やパン、砂糖などを摂ると体内で消化(分解)され、ブドウ糖になります(ブドウ糖は身体を動かす主なエネルギー源)。食後、ブドウ糖が体内に吸収され血液に入ります。すると血糖値が上昇します。それを「食後高血糖」といいます。通常は食後高血糖が起こると膵臓からインスリンが分泌され、細胞が糖を取り込みエネルギーとして利用します。食後1~2時間ほどで血糖値は正常範囲へ戻ります。ただ、食後高血糖が非常に高い状態やインスリン分泌不足、インスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)などがあると、エネルギーとして消費されず余ったブドウ糖は、体内のタンパク質(皮膚、血管、コラーゲン、骨、脳、神経など)と結びつき糖化現象を引き起こします。

還元糖とは
還元性のある糖のことで、分子中にアルデヒド基(-CHO)やケトン基(-CO-)をもちます。ブドウ糖、果糖、麦芽糖などが代表的です。還元糖はアミノ酸と化学反応を起こしやすい特徴をもちます。この糖自体がもつアルデヒド基が糖化の出発点です。アルデヒド基がタンパク質中のアミノ基(リジンやアルギニンの残基)と結合して、シッフ塩基➡アマドリ化合物➡AGE へと進みます。

メイラード反応とは
糖化は「メイラード反応」とも呼ばれています。1912年フランス人のLouis Camille Maillardによって報告されました。還元糖とアミノ酸の縮合反応である糖化反応(メイラード反応)は前期反応(アマドリ転位物が生成するまで)と後期反応(酸化、脱水、縮合反応によって進行する)に分けられます。後期反応ではAGE(終末糖化産物、老化促進物質)を生成します。
食品のメイラード反応
糖化反応(メイラード反応)は加熱によって反応する為、加熱調理や食品の長期保存などで促進されます。還元糖とアミノ酸が加熱によりアミノカルボニル反応が起こり褐色物質のメラノイジンをつくります。食品分野でのAGEは「メラノイジン」といいます。加熱調理した食品、味噌、醤油、コーヒー、ビールなど褐変食品の色調変化の原因とされています。パンや肉の香ばしい香りや焼き色、味噌や醤油の熟成した色や風味、コーヒーやビールの焙煎香などがあります。砂糖は非還元糖ですが、酸とともに加熱するとブドウ糖、果糖に分解されるため、還元性が生じます。

非酵素的糖化反応
食品の加熱調理ほど速くはありませんが、生体内でも糖化反応(メイラード反応)は徐々に進行します。生体内での糖化は糖とタンパク質が非酵素的糖化反応(グリケーション)をします。非酵素的糖化反応とは、酵素を介さず非酵素的に結合してAGEを生成する反応のことをいいます。酵素の働きがいらないため、反応は自然にゆっくり進行します。
糖化ストレスとは
糖化の出発点はアルデヒドです。アルデヒドとはホルミル基(-CHO)を持つ有機化合物の総称です。糖化ストレスとは、アルデヒドが生体内で過剰に生成する状態を意味し、様々な物質(タンパク質、脂質、塩基)に分子レベルでの衝撃を与えます。それにより糖化反応(メイラード反応)を起こし、AGEが体内に蓄積し、細胞や組織に悪影響を及ぼします。アルデヒドの過剰生成を起こす要因は、血糖スパイク(食事によって血糖値が急激に上昇しその後急激に下降する現象)、高脂肪食(high fat diet: HFD)、過剰飲酒に分けられます。特にここでは血糖スパイクについて述べます。還元糖が直鎖型になるとアルデヒド基(-CHO)やケト基(-C=O)があらわれ反応性が高まり血糖スパイク時に連鎖反応的に多糖類のアルデヒドが生成されます。アルデヒドは反応性が高いので、タンパク質等と容易に反応を起こして構造や機能の変化を起こします。
食後高血糖によって生じる炭水化物由来の反応性アルデヒド
グリセルアルデヒド(glyceraldehyde: GA)
3-デオキシグルコソン(3-deoxyglucosone: 3DG)
グリオキサール(glyoxal: GO)
メチルグリオキサール(methylglyoxal: MGO)
反応性アルデヒドは「α-ジカルボニル化合物」とも呼ばれ、強力にタンパク質を糖化させてAGEを作ります。糖化ストレスが強いと、こうしたアルデヒド類が体内に増えてAGE形成を加速させ組織障害を悪化させます。

「AGE(AGEs)」とは
AGEは「Advanced Glycation Endproducts」の略です。AGEsと記載されることも多くありますが、いずれも同じものを指しています。日本語では「終末糖化産物」と訳されます。糖とタンパク質が非酵素的に反応し、シッフ塩基(schiff base)の形成を経てアマドリ転移で糖化タンパクとなり、糖化反応中間体(反応性アルデヒド)を経て、糖化最終生成物のAGEに至ります。糖化の後期反応で生成する血中のAGEにはカルボキシメチルリジン(Nε-carboxymethyl lysine:CML)、ペントシジン(pentosidine)、カルボキシメチルアルギニン(Nω-carboxymethylarginine:CMA)など様々な物質があります。
コラーゲンの糖化
コラーゲン(collagen)は、人体の全タンパク質の約30%を占める、体の構造を支える主要なタンパク質のひとつです。皮膚・骨・腱・血管など、さまざまな組織に含まれています。3本のポリペプチド鎖のらせん状に絡み合った構造(三重らせん構造)をしており、その構造によって弾力があり強靭な性質を持っています。コラーゲンはターンオーバー(新陳代謝)が遅いため、一度糖化すると長期間に渡り、AGEが蓄積されます。
コラーゲンのターンオーバー(新陳代謝)期間
皮膚(真皮):数ヵ月~1年ほど
血管:数ヵ月~数年
腱・靭帯:数年
骨:10年以上
参考論文
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ajpa.20598?utm_source=chatgpt.com
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40716529
20歳を過ぎるとコラーゲンの糖化は急増するといわれています。コラーゲンが糖化するとAGEによりコラーゲン分子同士を結合する架橋が異常に増加し「老化架橋」を増やします。老化架橋が増えるとコラーゲンは分解されにくくなり新しいコラーゲン合成が阻害され、コラーゲン本来の機能が損なわれていきます。

皮膚コラーゲンの糖化
皮膚の真皮層に存在するコラーゲンが糖化することによって、肌は下記のような症状になりやすくなります。
*ハリ・弾力低下:コラーゲン繊維が硬くなる → ハリがなくなる、弾力の低下
*しわ・たるみ:コラーゲン同士が異常に結合(老化架橋)する → 肌のごわつき、たるみやすくなる
*くすみ(黄ぐすみ):黄〜茶色に変色 → 黄ぐすみが現れる
*老け見え:新しいコラーゲンが作られにくくなる → 肌再生力の低下

参考:
肌の「黄ぐすみ」の新メカニズムを解明
https://corp.shiseido.com/jp/releimg/1808-j.pdf
コウジ酸の顔面黄ぐすみに対する改善効果
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679277572480
その他、体の糖化
糖化は、体中で反応を起こします。血管で糖化が起きれば、血管は脆くなり、動脈硬化や心筋梗塞などを招きます。脳なら認知症や脳梗塞、骨なら骨粗しょう症や変形性関節症などを招きます。また糖尿病や糖尿病の三大合併症(神経障害、網膜症、腎症)にも深く関与していると言われています。身体全体の健康、美容の為、注意が必要です。老化現象は加齢によって起こりますが、AGEが蓄積されると、病気や老化のリスクやスピードが一気に跳ね上がります。
糖化、AGEの抑制
AGEの根源である糖質は食事から摂るエネルギーの1/2を占めていて、欠かすことのできないエネルギー源になります。そのため、ある程度体内でAGEが生成されることは、致し方ないところです。ですが、AGEの蓄積を最小限に抑えることは大切です。ご自身の食習慣、生活習慣に向き合いましょう。
食習慣
食後、高血糖にならない食べ方を心がけることが大切です。
・食事の順番を「野菜 → タンパク質 → 炭水化物」
・食物繊維を多くとる(野菜、海藻、きのこ、豆類など)
・食物繊維の多い食品を選ぶ(玄米、雑穀、全粒粉パンなど)
・間食や清涼飲料などの過剰な糖分を控える
・抗酸化作用のある食品を摂る(ビタミンC、E、ポリフェノールなど)
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最後に
糖化、AGEのメカニズムについて記述いたしました。私たちの身体の構成材料は基本的にタンパク質です。そのタンパク質は糖とひっつきやすく、糖化を起こしAGEを生成、様々な病気や老化を引き起こします。非常に代謝期間が遅いコラーゲンが糖化されると外見にも大きな影響を及ぼします。「若いから、年取っているから・・」など関係ありません。刻一刻と糖化は蓄積され、AGEは生成されます。今日から、今から取り組んで、できるだけ病気や老化を予防し、健康や美容に活かしましょう。
参考:からだサポート研究所
https://ebn2.arkray.co.jp/academicinfo/
糖化ストレスと抗糖化作用の評価
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/18/2/18_67/_pdf
生体におけるメイラード反応の影響
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/5/53_299/_pdf
糖化ストレス:分子レベルの影響とその防御機構
https://www.toukastress.jp/webj/article/2023/GS22-48j.pdf