《男性編》妊娠する為の「妊活メシ」すぐに取り組める簡単な食事法
著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
Contents
男性の妊活に必要な食事や栄養を簡単に摂る方法を解説
不妊とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしていても、一定期間妊娠しないものをいいます。一定期間とは日本産科婦人科学会では、「1年が一般的」と定義しています。 不妊は約10組に1組と言われていますが、妊娠を考える年齢が上昇していることもあり、この割合は更に高いのではないか、とも言われています。不妊ではないか、と考えただけで大きな不安をお持ちになることと思います。
不妊の原因は、男性側、女性側、またはその両方にある場合があり、更に何も原因がない場合もあります。 男性も女性も、まずは健康であることを心掛けなければいけません。体が健康で、キチンと毎日生命活動が行われていれば、ホルモン分泌なども健康に行われます。
ここでは、男性の妊活としての食事を中心に説明します。
男性の妊活
男性の不妊は、不妊全体の半分ほどを占めるといわれており、多くの方の悩みの元となっています。男性の不妊原因は、「加齢により精子の量や質の低下」「精子をつくる機能低下」「精子の通り道が閉塞」などがあります。 ご自身の不妊の原因については、受診をして原因究明をし、適切な不妊治療を受ける必要があります。
妊活の方法のひとつに食事改善や生活改善があります。 けれど、食事や生活を改めることだけで、必ず妊娠できるようになる、というものではありません。あくまでも、健康で強い体づくりをして、妊娠できやすく体質改善することが目的です。
ここでは、妊娠する為の「妊活メシ」をご紹介します。妊活目的だけではなく、健康を維持するための方法でもあります。今日から取り組んでいきましょう。
基本は栄養バランス
精子の量や質を低下させないために、まずは栄養バランスのとれた食事が基本です。カラダをつくる材料である、「炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル」をバランス良く摂る必要があります。
栄養バランスの摂れた食事は「一汁三菜」を習慣にすることが大切です。
主食:炭水化物「ご飯、パン、麺類など」
主菜:タンパク質「肉、魚、卵、大豆類など」
副菜2品:ビタミン、ミネラル、食物繊維「野菜、海藻、きのこ類など」
汁物:ビタミン、ミネラル、食物繊維「 菜、海藻、きのこ類など」
一汁三菜は、バランスの良い食事を摂る為の、簡単な方法です。炭水化物、タンパク質、野菜が整った食事を意識して摂るようにしましょう。
「偏った食事」や「不規則な生活」をしない
偏った食事や食べ過ぎ、お腹を満たすだけのジャンクフード、スナック菓子の多量摂取など、日々摂る習慣があれば、まずは見直し、一汁三菜を中心とした栄養バランスの良い食事を摂るようにしましょう。また、肥満の解消も精子の質を上げる為に必要と言われています。
ただちにやめるべき食習慣
肉ばかり、炭水化物過多、塩分過多、カロリー過多、ダブル炭水化物、ジャンクフード、インスタント食品、ファーストフード、コンビニ食、油脂の多い揚げ物、お菓子、ジュース、サプリメント、健康食品など
ただちにやめるべき生活習慣
多量の飲酒、喫煙、睡眠不足、夜更かし、夜食、ストレス、運動不足、悪姿勢、長時間のゲームやパソコンなど
精子を作るために必要な栄養素
男性不妊症は妊娠を望む夫婦にとって大きな問題の1つです。その原因は精子が作られにくい精巣の状態にあることで、精子形成障害と言います。その治療法や効果は未だ不十分と言われています。
精子形成は様々な環境によって影響を受けます。例えば、陰嚢内の温度、ホルモンの濃度、ストレスなどがよく影響する要因として考えられます。また健康的で大量の精子を作るためには十分な栄養が必要です。
横浜市立大学大学院生命科学研究科創薬再生科学小川教授らの共同研究グループでは精子形成に必要な栄養素物質群を解説しその全容が解明されました。
この研究ではマウスを使用した研究がなされ、その結果、ビタミンE、ビタミンC、グルタチオンを加えると精子形成が顕著に亢進することが明らかになりました。
さらに血清代替物に脂質が豊富に含まれていることから、それらの脂質を解析するリピドミクス解析を行われ、さらにリゾリン脂質に特化した解析を行って特定の脂質の種類が絞り込まれました。
リゾリン脂質を培養液に加えると精子形成効率の向上が確認できました。
リゾリン脂質:
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/202006ogawa_FASEB.html
細胞膜を構成するリン脂質は2本のアシル基(脂肪酸)をもっているが、それが1本なのが、リゾリン脂質。血液中に存在するリン脂質からホスホリパーゼの作用によって産生される。
精子形成の開始と維持には脂質、特にリゾリン脂質が重要
脂質の酸化を抑える抗酸化物質としてビタミンE、ビタミンC、グルタチオンが有効
情報元: 精子形成に必要な栄養素群を解明 論文https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1096/fj.202000245R
ビタミンE
脂溶性ビタミンのひとつで、抗酸化作用があります。体内の細胞膜などに存在し、活性酸素の害から体を守ってくれています。 その抗酸化作用は精子の老化を防ぎます。
ビタミンEに関する詳しい情報はこちらを参照
厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/11.html
ビタミンEが多く含まれる食品
紅花油、ひまわり油、オリーブオイル、アーモンド、アボカド、かぼちゃなど
ビタミンC
水溶性ビタミンのひとつで、抗酸化作用があり、体の酸化から守る働きがあります。また、コラーゲン生成などにも必須の栄養素です。
精子は活性酸素による酸化ストレスで老化が促進されます。ビタミンCはストレスに対抗する成分の為、酸化ストレスの抑制に役立ちます。また、ストレスを受けることにより、ビタミンCは多量に使われる為、ビタミンCを意識的に摂ることが必須です。ストレス社会と言われる現在、誰でもストレスは溜めやすくなります。十分にビタミンCを摂るように心がけましょう。
ビタミンCに関する詳しい情報はこちらを参照
厚生労働省『「統合医療」に係る情報発信等推進事業』
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/09.html
ビタミンCが多く含まれる食品
柑橘類、パプリカ、ピーマン、果物、じゃがいもなど
グルタチオン
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸から成るトリペプチドです。抗酸化物質であるグルタチオンはフリーラジカルや過酸化物といった活性酸素種から細胞を守る役割があります。
チオールは生体内の主要な抗酸化成分で、細胞内のチオール環境をグルタチオンは維持します。グルタチオンは自らのチオール基を用いて過酸化物や活性酸素種を還元して消去します。また毒物、薬物等を細胞外に排出する働きがあります。グルタチオンはこれらの物質をシステイン残基のチオール基に結合させ自ら細胞外に排出されることで細胞を解毒し守っています。またグルタチオンは酸化型ビタミンCを還元型ビタミンCに戻す働きもあります。
情報元:グルタチオン代謝とチオールケミストリーhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/53/6/53_354/_pdf/-char/ja
国立健康・栄養研究所
https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail546.html
グルタチオンが多く含まれる食品
ホウレンソウ、キャベツ、シロナ、パセリ、キュウリ、カボチャ、トマト、サヤエンドウ、ソラマメ、エダマメ、エノキタケなど
情報元:植物性食品材料中のグルタチオン含有量
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/27/4/27_4_425/_pdf/-char/ja
その他、肉類や酵母などに含まれていると言われています。
亜鉛
亜鉛は体内に約2gと微量ですが、、体のあらゆる代謝い関わるミネラルです。体内の200種類以上の酵素を助ける働きをしています。また、細胞分裂を正常に行って新しく細胞を作ったり、タンパク質を合成するなど、体の成長に欠かせません。新しく細胞を生み出す働きがあり、生殖機能に深く関係しています。
男性にとって亜鉛は重要な栄養素で特に前立腺や精巣に高濃度に含まれています。亜鉛が欠乏すると他の臓器よりも顕著に亜鉛が低下し、精巣にも影響を及ぼすことがわかっており、亜鉛は男性に非常に重要な栄養素といえ、精子をつくるために欠かせないミネラルです。亜鉛が不足していると精子の量や質に悪影響が及び、妊活力が低下する可能性があります。
亜鉛が多く含まれる食品
牡蠣、牛肉、大豆など
情報元:男性不妊と亜鉛に関する基礎的研究
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/119441/1/34_1.pdf
妊活には「葉酸と亜鉛のサプリ」・・とは言えない
男性の妊活には「葉酸」「亜鉛」のサプリメント・・ということは常識のようなことです。
これに対して、ひとつの論文があります。
男性が葉酸・亜鉛を摂取したときに、精液の質がどうなるのか、出生率に与える影響はどうなのか・・を 無作為化臨床試験で検証した論文です。
・2370組のペア(18歳以上の男性・18~45歳の女性)が対象
・プラセボ群、葉酸と亜鉛のサプリメントの使用群(葉酸5mg+亜鉛30mg)
・比較対象は6ヵ月後の精液のパラメータ(精子濃度、総運動性精子数 形態、 運動性、体積、DNA断片化)、無作為化後9ヵ月以内に発生した妊娠の出産割合
< 結果 >
ほとんどの精液パラメータに差は認められなかった。出産割合は治療群間で差は認められなかった。( プラセボ群35% 、葉酸+亜鉛群34%)葉酸+亜鉛群は消化器症状の副作用で腹部不快感、腹部の痛み、吐き気、嘔吐など)がプラセボ群に比べ多くみられた。
参考論文: Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment A Randomized Clinical Trial file:///C:/Users/Junko%E3%80%80Suwa/Downloads/jama_schisterman_2020_oi_190134.pdf
サプリメントは必要に応じて、摂るべき時もありますが、自己判断で摂ることはおススメしません。
食品は多くの栄養素を含んでいますし、過剰症になることも殆どありません。亜鉛や葉酸は妊活に必要な栄養素ではありますので、普段の食事の中で不足にならないように多く含む食品を積極的に摂って頂ければと思います。
男性の妊活食
バランスよく食べる
ビタミンE、ビタミンC、グルタチオン、亜鉛を積極的に摂る
規則正しい生活を送る
わかっていてもなかなか出来ないものです。出来るだけ、長く続けられる方法をご紹介します。
バランスの良い食事
一汁三菜の食事を摂ることが基本となります。けれど、毎日3食続けることは、各生活パターンにより難しい場合が多くあります。
Point!
3食の食事の中で、一汁三菜を食べられる確率は、朝食、昼食、夕食の、どの食事かを考えて決めましょう。昼食や夕食は外食になりやすいこともあるので、 朝食は比較的取り組みやすい食事と言えます。もし、朝食が欠食や出勤後にコンビニのパンや喫茶店でモーニングを食べている・・などがあれば、それを家で食べることにして、前日に汁物やサラダなどを用意して食べるとよいでしょう。
3食の中で1~2食は一汁三菜を意識して摂り、残りの1~2食は比較的自由に摂る、と決めてしまいましょう。ただ、自由に摂る食事も、過食や飽食は出来るだけ避け、腹七分くらいに抑えるように心がけましょう。
栄養素について
「〇〇の栄養素を摂りましょう」と言われても、どう食べればよいのか、悩みますよね。特に、男性妊活で摂って欲しい各栄養素の摂り方Pointをお伝えします。
ただ、これだけ食べればよいと言うものではありません。毎日、どこかの食事の中で、1回は摂るようにしよう!くらいの気持ちで取り組んでください。今はコンビニエンスストアでも手軽にフルーツや野菜も売っています。不足しているな、と感じたら補食するようにしてください。
ビタミンE
オリーブオイルや紅花オイルなどに含まれていますので、バターやサラダ油などをオリーブオイルや紅花オイルに変えて、摂るようにしましょう。こういった油は悪玉コレステロールを下げる働きもあり、健康オイルと言えます。また、おやつや小腹がすいた時には、ノンオイルのアーモンドがおすすめです。数粒、ゆっくり、しっかり噛んで食べると満足がしやすくなります。
ビタミンC
野菜や果物に多く含まれます。野菜は積極的に摂りましょう。じゃがいもやさつまいもにも多く含まれますので、イモ類も味噌汁などに入れて摂るようにしましょう。また、調理で失いやすいビタミンCは、果物での摂取がおすすめです。男性は果物をあまり摂らないと言われています。意識して、一日1回は食べる・・と決めましょう。バナナ、みかん、いちご、ブドウなどは皮を剥かずに食べることができます。おやつとして活用してください。キウイは半分に切ってスプーンで食べるとよいです。ゴールデンキウイ(黄色)は特にビタミンCの多い果物です。
グルタチオン
グルタチオンが多く含まれる食品: ホウレンソウ、キャベツ、シロナ、パセリ、キュウリ、カボチャ、トマト、サヤエンドウ、ソラマメ、エダマメ、エノキタケなど
野菜やキノコ類など幅広く含まれています。また夏野菜や冬野菜など各季節ごとにも含まれていますので、旬の野菜を意識して積極的に様々な種類を摂るようにしましょう。
亜鉛
亜鉛の代表的な食品や牡蠣、牛肉、大豆などです。タンパク質の食品に多いので、タンパク質が不足しないように摂りましょう。また、大豆も亜鉛摂取としておすすめです。豆腐や豆乳、納豆など意識して摂るようにしましょう。
規則正しい生活
睡眠
質の良い睡眠をとれるように努めましょう。例えば、寝酒は禁止です。寝酒は寝つきはよいのですが、眠りが浅くなり、質の悪い睡眠となります。
入浴は湯舟につかるようにしましょう。心と体がリラックスでき、体の緊張がとれて、良い睡眠をとりやすくなります。シャワーだけで終わらせず、できるだけ湯舟に浸かる習慣を持ちましょう。
質の良い深い眠りの睡眠は細胞の修復や免疫力アップ、脂肪燃焼など様々な生理作用があります。
夜更かしもやめて、23時くらい、遅くても24時までには就寝するようにしましょう。
運動
運動で筋肉が刺激を受けると、テストステロン(男性ホルモン)が大量に分泌され、筋肉に運ばれ、筋肉細胞の受容体にテストステロンが付き、細胞分裂を促進して筋肉量を増やすと言われています。そのため、運動で筋肉に刺激を与えることで血中のテストステロンの数値が高くなることが分かっています。
前立腺ガンはテストステロンをエサに増えます。前立腺ガン経験者が運動したら、再発や転移が少なくなります。ハーバード大学の研究で、2750人の前立腺がん患者を追跡調査した結果、117人にガンの再発・転移・死亡が見られました。そのリスクを1.0としたとき、週3時間以上の早歩きのウオーキング(早歩き)をした人のリスクは0.4に抑えられることがわかりました。
大学ラグビー選手における 4 ヶ月のトレーニングがホルモン分泌応答に及ぼす影響 http://www.waseda.jp/sports/supoken/research/2009_2/5008A065_abs.pdf
Physical activity after diagnosis and risk of prostate cancer progression: data from the cancer of the prostate strategic urologic research endeavor
https://cancerres.aacrjournals.org/content/71/11/3889
以上のことから、筋力トレーニングや週3日以上の早歩きウォーキング程度の運動習慣は妊活をする上で、とても大事になります。
その他
他には、禁煙を心掛け、過度な飲酒は避けましょう。肥満やストレスも改善しましょう。
最後に
いかがでしたか?全部一度にやろうとすると、大変かもしれません。まずできるところから、ひとつずつ取り組んでみてください。そして、それが習慣になれば、一生モノです。良い食習慣、生活習慣は、将来の生活習慣病予防にもつながります。この妊活を良い機会とし、体質改善を取り組みましょう。