なぜキノコを食べると免疫力が上がるのか

きのこのβ-グルカンの働き

著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
池上淳子

きのこの免疫力効果、美容効果

シイタケ、シメジ、マイタケ、エノキタケなど、様々な種類のあるきのこ達。旨味も強く、低カロリー、食物繊維もあり、健康・美容に嬉しい食材。きのこの素晴らしい健康・美容パワーを見ていきましょう。

きのこ類の栄養価

きのこ類の栄養価
きのこ類の栄養価(100g中)
日本食品標準成分表(八訂)文部科学省

低カロリー

こちらの栄養価計算表をご覧いただいてもわかる通り、きのこ全般的に低カロリーです。100g食べても、20~30kcalほどしかありません。因みに成人女性の1日の摂取カロリーは2000kcal程度です。

ミネラル豊富

更にミネラルが豊富です。カリウム、マグネシウムなどが多くあります。カリウムは血圧を下げる働きやむくみ予防の効果が期待できます。マグネシウムは骨生成や代謝を促進する働きなどがあります。

ビタミンDで骨強化

カルシムの吸収を促進して骨生成に不可欠なビタミンDはマイタケに多く含まれます。また乾燥シイタケにも多く、100g中17㎍が含まれます。ビタミンDは日光にあたることでも体内合成されますが、こういったきのこ類を食べることでも有効です。

食物繊維が豊富

食物繊維の1日の目標量(日本人の食事摂取基準2020)は成人男性21g以上、成人女性17g以上です。きのこ類は食物繊維が豊富です。食物繊維が多いとしっかり噛むことになり、早食いや食べ過ぎを防ぎ、満足感を得ることができます。また便のカサを増やして便秘解消にも役立ちます。

きのこの健康効果

キノコ類に含まれるβ-グルカン(不溶性)は「免疫賦活作用」「抗腫瘍作用」が報告されている。いわゆる免疫力の活性化、ガン予防・抑制効果が期待でき、身体を守る力を向上させる働きである。 菌やウイルス、ガン細胞などと戦う免疫を担うリンパ細胞たち( マクロファージや、NK細胞、 T細胞、キラーT細胞など)の働きを強くして、抵抗力を高め、病気に負けない強い体づくりが可能になる。

強い身体

きのこの免疫力アップ&ガン予防効果

β-グルカン: 難消化性多糖類

β-グルカンはきのこの細胞壁に含まれる食物繊維の一種。

β-グルカンには水溶性と不溶性両方あり、未だ解明されていないところもあるものの、健康を維持していく上で魅力的な働きをもたらせてくれるものである。生きていく上で欠かせないものではないが、積極的に摂るべき食材と言える。

グルカンとはD-グルコースがグリコシド結合で連なった多糖で、グルカンの中でグルコース分子のつながりがα型のものをα-グルカン、β型のつながりをもつものをβ-グルカンと分類されている。

多糖とはブドウ糖や果糖などの最小単位である単糖が多数結びついたものをいう。その中でグルカンとは、グルコース(ブドウ糖)のみが化学的に結合して連なった(枝分かれしているものも有り)多糖類のことを指す。

2種類のグルコース

α型
αーグルコースから成る多糖類を α-グルカン。デンプン、グリコーゲンなど
消化系酵素によ りα-グルカンはブドウ糖や麦芽糖などに分解されるが、β-グルカンは分解されません。

β型
β‐グルコースから成る多糖類をβ-グルカン。 β-グルカンはグルコース同士の炭素原子の結合位置の違いにより、(1→3)(1→ 4)(1→6)の3通りの結合様式がある。これらの結合様式の組合せで自然界 に様々なβ-グルカンが存在する。

きのこに含まれるβ-グルカンは不溶性食物繊維、セルロース。β1-3結合(直鎖)にβ1-6結合(側鎖)がある構造をしている。

β-グルカンの化学構造
β-グルカンの化学構造

最も重要なβグルカンの効果発現機序はマクロ ファージ上のレセプターと結合して細胞内グルタチオン濃度を上昇させ(還元型誘 導:M1誘導とほぼ同義)IFN-γ産生亢進 などを経由してTh1応答を活性化させることです。Th1/Th2バランスは抗原提示細胞の細胞内チオールレドックス状態により制御され、細胞内グルタチオンにおける還元型 (GSH)/酸化型(GSSG)のバランスによって調節されています。現在、このチオールレドックス理論を用いてレドックス制御を行う事によって、種々の疾病(癌悪液質・糖尿病・喘息・肝炎・肝硬変・IBD・間質性肺炎・移植拒絶・アレルギーなど)に対する免疫予防効果が立証されてきています。β-グルカンであるレンチナンはまさに還元型誘導によりTh1免疫を上昇させます。

加齢に伴う免疫力低下とβ-グルカンの是非 https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/hospitalletter28.pdf

シイタケ「レンチナン」

しいたけ レンチナン

シイタケのβ-グルカン
名称:「レンチナン」と言い、医薬品になっている。

シイタケにレンチナンは0.4~1mg/g含まれている。抗腫瘍剤として使用される場合、わずか2mgを週に1回静脈注射するらしい。本来、細菌の細胞壁に含まれるβ-グルカンが体内に入った場合、細菌による体内汚染が起こっていると体は認識する。だから、免疫反応が強く引き起こされると言う。

β-グルカンは腸のエンドサイトーシスにより吸収されることが報告されている。摂取したレンチナンの何パーセントが腸管吸収されるのかは、報告がない。

参考論文
免疫賦活成分β-グルカン(lentinan)含有機能性食品の研究開発
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafps1997/30/6/30_6_301/_pdf/-char/ja

マイタケ「グリフォラン」

マイタケ グリフォラン

マイタケのβ-グルカン 
名称:「グリフォラン」と言う。

マイタケに含まれるβ-1-3-Dグルカンやマイタケ菌糸体は抗腫瘍活性を示す。また、マイタケに含まれる成分Dフラクション、グリフォランに強い抗腫瘍作用があることが報告されている。

その他のβ-グルカンの多く含まれるきのこ類

アガリクス
霊芝
エリンギ
なめこ
ヒラタケ など

β-グルカン量

生のきのこ100gあたりに含まれるβグルカンの量

マイタケ2.3g
ブナピー2.0g
エリンギ1.9g
ブナシメジ1.8g
霜降りひらたけ1.5g

ホクト調べ
https://www.hokto-kinoko.co.jp/kinokolabo/jiten/jiten06/

きのこ以外のβ‐グルカン

酵母

酵母に含まれるβ-グルカンは不溶性食物繊維、セルロース。
パン酵母、黒酵母 など
名称:「ザイモサン」と言う。
β1-3結合(直鎖)にβ1-6結合(側鎖)がある構造をしている。

天然酵母パン

酵母に含まれるβ-グルカンの効果

アレルギー性鼻炎症状改善効果、整腸効果が報告されている。また、黒酵母( A u r e o b a s i d i u m p u ll u l a n s ) のβ‐グルカンは健康食品や化粧品副材料として利用されている。構造的にはパン酵母β-グル カンに類似しており、免疫賦活効果、抗アレルギー 効果が報告されている。

穀物

押し麦 β-グルカン

大麦に含まれるβ-グルカンは水溶性食物繊維。
大麦、オーツ麦、、小麦、ライ麦など
β1-3結合(直鎖)にβ1-4結合(側鎖)が混在しており、分岐は見られない

海藻

昆布 β-グルカン

海藻に含まれるβグルカンは水溶性食物繊維。
特にコンブ属(Laminaria)に多く含まれる。
β-1-3結合(直鎖)に僅かにβ-1-6結合(側鎖)しているとされている。
名称:「ラミナラン(Laminaran)」

穀物・海藻に含まれるβ-グルカンの効果

大麦、穀物系、海藻系のβ-グルカンは水溶性食物繊維の為、水溶性食物繊維の働きを得ることができる。

水溶性食物繊維の働き
血糖値上昇抑制効果、コレステロールを下げる効果、腸内環境を改善するチカラなど。不足しがちな水溶性食物繊維を得ることで、健康効果やダイエット効果に非常に役立つ。免疫賦活化作用については現在研究中である。

最後に

きのこを食べるとなぜ免疫力が上がるのか、それはきのこに含まれているβ‐グルカンの働きによるものでした。きのこも多くの種類がありますが、良く食べる機会の多い、シイタケとマイタケはβ‐グルカンが多く、とてもおススメです。もちろん他のきのこにもβ-グルカンは含まれています。

きのこは味にくせがなく、どんな料理にも足しやすい食材。低カロリーでミネラルも豊富で、食物繊維も多く食べ過ぎも防いでくれる、素晴らしい食材です。そこに、免疫力をあげる働きもあるなんて、もう、食べるしかありません。

私たちは常に、菌やウイルスが体内に侵入してきやすい環境にあります。そして実際に入ってくると私たちの持っている免疫細胞がその敵と戦ってくれて、病気にならないように守ってくれています。 健康を維持し、毎日元気に活力ある生活活動を行うことは大切です。免疫細胞を活性化させる働きのあるきのこを積極的に摂り、健康を維持することに役立てましょう。

参考:
真菌β-1,3-グルカン類の構造と宿主応答性
https://www.dojindo.co.jp/letterj/114/news114.pdf

β-グルカンについて 日本食品分析センター
https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_no40.pdf

β-グルカンについて  食品工技ニュース
http://www.aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1301-2.pdf