【美肌学】日光の影響で起こる肌老化のメカニズム
著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
Contents
日光、ブルーライト、近赤外線などの肌への影響
弾けるような、みずみずしい美しい肌、美肌は誰でも憧れます。若年の場合は「もっと綺麗な肌になりたい!」、中年期以降は「美肌を維持したい!」と思うものです。そもそも、なぜ肌は老化するのでしょうか?
通常の加齢による老化では、細かいシワができたりしますが、特にダメージが強いと言われる太陽光による「光老化」では、深いシワができると言われています。
つまり、加齢により、ある程度、肌のシワやたるみ、肌細胞の萎縮などは避けて通れませんが、それよりも数倍、老化に関わることは太陽光線です。私たちは、昼間太陽が上がっているときに活発に活動をしています。そのため、生きている中で、太陽光線は避けて通れません。また太陽は全生物やヒトの心の安定まで、幅広く、素晴らしい影響や効果を与えてくれています。
その一方でしみ、しわ、たるみの原因となり、美肌が崩れて肌老化を起こしてしまいます。太陽光線が肌に及ぼす影響をメカニズムから知っていただき、美肌維持に役立てていただけると幸いです。また日光だけではなく、ブルーライトや近赤外線などの肌への影響についても解説します。
太陽とは
太陽は光を与えてくれて昼間を作り、温熱作用で気候を温暖にし、美しい自然が維持され、美味しい食物が育まれます。そして植物は太陽光のエネルギーを用いて光合成を行って酸素を放出しています。命の源ともいえる太陽の恩恵で地球上の全生物の生命活動が維持されます。
太陽とビタミンD
太陽の紫外線が皮膚に照射されると、体内でビタミンDが合成されます。ビタミンDは骨代謝、免疫機能の維持、疾病予防などに関わりがあり、欠乏は避けないといけません。日焼け止めクリームなどの使い過ぎにより、ビタミンD不足が懸念される意見もあります。ビタミンDの摂取は食事からも摂ることができます。日焼けを避ける方は、積極的に摂取されることをお勧めします。ビタミンDが豊富な食品は、魚類や乾燥キノコ類です。
太陽から得られる幸福感
晴れた日、外出をすると、気分が良く、高揚して、リフレッシュされ、気分転換が出来ると思います。太陽にあたることで、脳で「セロトニン」という幸せホルモンが分泌され、気持ちを明るく前向きに、精神を安定させて、心のバランスを整えてくれます。
また、朝起床して、日を浴びることも推奨されています。時間栄養学では、実際の時間の流れと、体内時計は数分程度の差があり、その差をリセットする為に、太陽にあたることが必要です。この時間のズレが積み重なると様々な不調の原因になると言われています。
太陽光線による治療
古代から日光浴は創傷や骨折、感染症の治療などに役立てられてきました。
1800年 赤外線発見
1801年 紫外線発見
1877年 太陽光線による殺菌効果
などが科学的に実証されました。それにより、医療の現場では、ナローバンドUVB療法などの光線療法が活用されるようになりました。
太陽光線とは
紫外線:ultraviolet:UV
UVC:190~290nm 「割合:0%」→オゾン層で遮断され地表まで到達しない
UVB:290~320nm 「割合:0.5%」
→ビタミンD合成、サンバーン、メラニン合成誘導、発がん
UVA:320~400nm 「割合:20%」
→光老化(しみ、しわ、たるみなど)、発がん
UVA1:340~400nm(細胞・組織の損傷が生じにくい)
UVA2:320~340nm
可視光線:400~780nm 「割合51.8%」
→光老化促進 など
赤外線:infrared light:IR 780~1000000nm 「割合:42.1%」
IRA:780~1400nm
IRB:1400~3000nm
IRC:3000~1000000nm
※1500nm以下の赤外線は近赤外線(near‐IR:NIR)と呼ばれる
→近赤外線:光老化促進 など
情報元:https://www.hikari-rouka.org/knowledge/sunlight/
太陽光線と皮膚の構造
波長の短いUVBは肌の一番上の層である表皮に影響を与えます。波長の長いUVAはコラーゲン線維などがある真皮層まで届き真皮に影響を与えます。可視光線は真皮層に届きます。(少量だけ皮下組織)赤外線は皮下組織の下にある筋層(筋肉)まで届きます。
画像情報元:https://www.clubcosmetics.co.jp/club_suppin/bihakupowder.html
光老化とは
「ひかりろうか」と呼びます。光老化は、加齢による生理的老化とは異なり、太陽光を浴び続けることによって起こる肌ダメージのことを指します。太陽光を浴び続けると、しみ、しわ、たるみなどが起こり、皮膚がんを生じることもあります。太陽光には大きく、紫外線、可視光線、赤外線とありますが、この中で光老化を最も起こす原因は紫外線です。しかし、可視光線の一部のブルーライトや近赤外線も光老化に関わっています。
情報元:光老化啓発プロジェクト委員会
https://www.hikari-rouka.org/knowledge/about/
UVAの肌ダメージ
UVAは長い波長で320~400nmです。長い波長のため、肌の真皮層まで達します。曇りの日、室内や車内などでも影響があり、日差しの強い夏だけではなく、1年中日焼け対策が必要とされています。UVAの照射は肌への反応が弱いため、炎症に気づきにくいことが特徴で、いつの間にか日焼けを起こしていることもよくあります。日焼けを起こす力はUVBがUVAの600~1000倍強いといわれていますが、UVAは地上にいたる全紫外線の95%を占めているため、エネルギーは弱いけれど、照射量の多さから浸透力が高いと言われています。強い日焼けの原因はUVBが70%、UVAが30%になります。
UVA光子の吸収は、ポルフィリン、ビリルビン、メラニン、プテリンなどの細胞発色団から一重項酸素(活性酸素)の形成が起こります。また、UVAは真皮層まで達するため、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの美肌成分を産生をする線維芽細胞にダメージを与え、美肌成分の産生を減らします。そしてメラニン色素の合成を促進し、しみが目立つようになります。光老化であるしみ、しわ、たるみにUVAの照射が深くかかわっています。
UVAによる光老化のメカニズム、発がんにも関与
引用元:近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授/近畿大学アンチエイジングセンター副センター長 山田秀和 「UVAによる皮膚障害」
UV照射は,現在わかっている経路としては,①活性酸素種(ROS)産生,②細胞表面受容体の発現上昇,③ サイトカインシグナリング開始,④タンパク質の酸化、 のミトコンドリア損傷の5つであろう。
①太陽紫外線により産生されるROSの種類は,その波長によって異なる。UVAでは・O2 ‘O2(一重項酸素)を産生する。ROSは,転写因子アクチベータータンパク質1 (AP-1)および核転写因子NF-KBを誘導する. NF-KB の活性化は, IL-18, TNF, IL-6, IL-8 などの炎症誘発性サイトカインの発現を増強して炎症を強くする。
②および③増殖因子やサイトカイン受容体を活性化し,表皮角化細胞や真皮線維芽細胞でAP-1 を誘導し, MMP遺伝子の発現が増強する。AP-1 は,間質コラゲ ナーゼ(MMP-1),ストロメリシン-1(MMP-3),およ び 92kDaゼラチナーゼ(MMP-9)を含むマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を増強する。
MMP-1,3 および9は,多くのⅠ型およびII型皮膚コラーゲンを分解する.このため,くり返しの太陽曝露で は,分解コラーゲンが経時的に蓄積し,光老化の組織学的特徴ができあがる.また,AP-1 は,線維芽細胞でのプロコラーゲン遺伝子発現を妨げる. AP-1 はさらにプロコラーゲン転写を担う転写複合体に結合するか,またはトランスフォーミング増殖因子(TGF) -β の活性をブ ロックすることによって,真皮におけるI型およびII型プロコラーゲン遺伝子発現を阻害する。最終結果として は,真皮マトリックスの分解およびコラーゲン合成の減 少が起こる。こうして,光老化が完成する。
④皮膚表面の酸化反応は,過酸化脂質や酸化タンパクが産生され,角層の透明度に影響する(UVAとの関係は不明)。
⑤ミトコンドリアは,ROSのおもな供給源で,一重項酸素は,ミトコンドリアDNA(mtDNA)を変化させる。 UVAの反復曝露によって真皮線維芽細胞において光損傷皮膚で増加する。さらに,ゲノム低メチル化も,皮膚の発がんにみられるものと同様に,光によって皮膚に生じることも観察されている,このため,従来の皮膚がんの発症メカニズムには,UVAも関与する割合が高い”と 考えられるようになってきた.なお,UVA1 は,とくに サンバーン(日焼け)にも関与することがわかりつつある。病理組織学特徴一表皮突起の薄層化を伴う表皮萎縮、 隆起部の喪失を伴う平滑な皮膚表皮接合部,コラーゲン 含量の低下,および異常に厚くカールして崩壊した弾性線維およびコラーゲン分解生成物がある。非定型メラノサイトおよび非定型表皮細胞の数の増加もみられる。
UVBの肌ダメージ
太陽のエネルギーは波長が短い光ほどエネルギーが大きいと言われています 。太陽の光を浴びることによって起こる急性期の反応はUVBが大きく関与しています。日光皮膚炎、日焼け、免疫抑制、ビタミンDの産生などがよく知られています。慢性期の反応としては光老化、皮膚がんが引き起こされると言われています。
日焼けは紫外線によって起こる生物作用の1つで、通常その反応は24時間後がピークになります。好中球の浸潤が数時間後から始まり、その後リンパ球浸潤が生じます。紫外線炎症ではラジカルスカベンジャーであるヒトチオレドキシンやスピルリナの紫外線炎症への効果が報告されています。
※サンバーン: 紫外線に暴露した数時間後から現れる赤い日焼け(紅斑)のこと
UVB照射 により生じる活性酸素がp38 MAPKとJNKのリン酸化を活性化してIL-1 B, TNF-a, IL-6, IL-8 などの炎症性サイトカインが産生され,炎症細胞が皮膚に引き寄せられることが1つの機序と考えられる。炎症が非常に大きい場合,p38 MAPKはアポトーシスを誘導する。一方で、自然免疫にかかわる分子であるTLR3 を欠損したマウスでは紫外線炎症が生じないことから,これらの 炎症の最初の引き金には表皮角化細胞でのTLR3 の関与 も指摘されている.また,紫外線を吸収した細胞内の トリプトファンがFICZ(6-formylindolo[3.2-b)となり、それがリガンドとしてアリルハイドロカーボン(AhR)に結合することにより,AHRがHSP90 から外れて核内移 行し,CYP-1Aを含む各種遺伝子を活性化する機序も提 唱されている ,さらに、紫外線紅斑における毛細血管の拡張は局所におけるプロスタグランディンやのの産生によるが,この過程にもTNF-a, IL-1 8, IL-8 な どのサイトカインがCOX2 (cyclooxygenase 2) やINOS (inducible nitric oxide synthase)の活性化に関与する。
引用元:神戸大学大学院医学研究科皮膚科学分野教授 錦織千佳子 「UVBによる皮膚障害」から
日焼けにおける色素沈着を起こすおもな波長はUVB であるが,これはUVBにより,表皮角化細胞からα MSH, ET-1, GM–CSF, PGE2, NO, TRXの産生が高まり それらがパラクライン的にメラノサイトに働いてメラニン合成の亢進,色素細胞から周囲の表皮角化細胞へのメラノソーム輸送を活性化することによる。
ブルーライト(可視光線)の肌ダメージ
ブルーライトはテレビ、パソコン、スマートフォン、タブレット、白色光など私たちの生活に無くてはならないものから発光されています。
ブルーライトは紫外線のなかでもUVA波に近く真皮層にまでダメージを与える性質があります。真皮層にはコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの美肌成分とそれらを作る線維芽細胞がありダメージを与えてしまいます。肌のハリ、弾力、保湿が減少し、しわやたるみの原因となります。
更に、メラニン色素を発生させて日焼けの原因となるUVB波と同じく、色素沈着も引き起こし、シミを作る原因になります。
太陽光の紫外線が肌に照射されると、活性酸素種の光増感生成が起こり、皮膚の損傷やがんの発症に繋がると言われています。可視光線は活性酸素は発生しないと考えられてきましたが、マウス実験により、ブルーライトはミトコンドリアで酸化ストレスを誘発したことが認められました。太陽光線に含まれるブルーライトをヒトの皮膚をさらすことで発生する活性酸素種は一重項酸素ではなく、スーパーオキシドと考えられます。これらの結果からブルーライトはUVAと同様に皮膚の老化に影響を及ぼすことがわかりました。
情報元:ブルーライトが肌に及ぼす影響論文:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28315451/
近赤外線の肌ダメージ
近赤外線を知っていますか。肌ダメージの原因は紫外線であることがよく知られていますが、太陽熱エネルギーの比率は紫外線が10%以下、可視光線が約40%、近赤外線が約50%で大量であることがわかります。この大量の近赤外線は肌ダメージの大きな原因と言われています。ただ、紫外線ほど研究は進んでいないとされますが、近赤外線を防御するための日焼け止めなども販売されつつあります。
近赤外線は波長760~3000nmの電磁波で太陽光、白熱球、暖炉などの熱源電気製品から放射される非常に身近な電磁波です。特徴は、水やヘモグロビンなど水素結合が多く含む物質に強く吸収され透過性が高くあります。その特性を生かした技術や製品が幅広く利用され普及されています。例えば、リモコンやカメラなどは非常に身近なものです。近赤外線なしには今の社会は成り立ちません。しかし、美容面では、近赤外線が真皮から筋層まで到達し、皮膚深部に影響を及ぼすと言われています。
近赤外線の照射(過度に近赤外線曝露が起こると下へ繋がっていく)
→毛髪のケラチンに吸収(ケラチンの水素結合)
→肌の角質のケラチンに吸収
→防御しきれない場合は水やヘモグロビンにも吸収
→血管を拡張させて水とヘモグロビンを皮膚表層に集積
→発汗により肌の水分量を増加
→水泡を生じてその層で近赤外線を吸収して深部組織を防御
近赤外線の照射を制御することで、コラーゲンエラスチンなどの保水タンパク質の産生が促進されシワ改善に役立ちます。
近赤外線はミオグロビン(筋肉)にも吸収されやすいため、照射を制御すると、筋肉の過剰な収縮を緩和できます。日常的に太陽光の強い近赤外線に照射されていると近赤外線防御能が低い部位は筋肉の希薄化、組織の緊張を維持できずに、たるみの原因となります。
強い太陽光に長時間暴露されると肌が赤くなります。これは一時的に湯船につかって皮膚が赤くなるような場合と違って長期に持続します。この近赤外線の照射で血管が拡張するのは単純に熱で血管が拡張するのではなく、血管平滑筋がアポトーシスして血管を収縮できずに長時間拡張してしまうことが原因と言われています。また、太陽光に照射されたときに「ジリジリ」とする不快感は近赤外線によるものと言われています※1
紫外線は、皮膚がんや、浅い層のしみ、しわなどの光老化予防に必要不可欠なものです。しかしそれだけでは、深い層の光老化予防には不十分になります。紫外線防御に加えて、近赤外線防御も併せて対策することで、真皮層や筋肉などの収縮からくる、深いしわやたるみなどを予防していくことが考えられます。
※1 花王株式会社 ビオレUV アスリズム
https://www.kao.co.jp/bioreuv/athlizm/
美肌を維持するための日焼け対策
夏はUVBが多く、特にUVBの日焼け対策が必要と言われます。UVAや赤外線は一年中照射されます。このように季節により、多少の違いはありますが、今はこの光だけ・・ではなく、紫外線、可視光線、赤外線は同時に降り注がれ、厳密に分けることはできません。各太陽光線の説明を行いましたが、実際は全体的に大きく日焼け対策をすることが必要となります。
日焼け対策のPOINT
・必要に応じた防止効果のある「日焼け止め剤」を利用する
日焼け止め剤には、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤など、刺激の強い成分が含まれています。そのため、適切な日焼け止めを選びましょう。SPFはUVB、PAはUVAの刺激から守る強さを表しています。日常生活ではSPF10~20、PA+~++で十分カバーできます。一日一回強い数値の日焼け止めを塗るよりも、汗で流される場合もありますので、弱い数値の日焼け止めを数回使用する方が効率的です。
・日傘、帽子、サングラス、羽織もの等を活用する
UVカットを施してある、 日傘、帽子、サングラス、羽織ものなどを活用しましょう。UVAは夏だけではなく、1年中対策が必要です。
・近赤外線やブルーライト予防もお忘れなく
近赤外線にも対応した日焼け止めクリーム等が販売されていますので是非活用しましょう。また、ブルーライトは、テレビ、スマホ、パソコン等から照射します。ブルーライトカットシートなどを活用しましょう。
参考:
大阪医科大学皮膚科教授 森脇真一 「太陽光線について」
近畿大学医学部奈良病院皮膚科教授/近畿大学アンチエイジングセンター副センター長 山田秀和 「UVAによる皮膚障害」
神戸大学大学院医学研究科皮膚科学分野教授 錦織千佳子 「UVBによる皮膚障害」
クリニカタナカ形成外科アンチエイジングセンター院長 田中洋平、東京女子医科大学皮膚科 准教授 常深祐一郎 教授 川島眞 「近赤外線による皮膚障害」
近赤外線研究会:https://npo-hifu.net/wp/wp-content/uploads/2017/12/no7-4.pdf
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