唐辛子の快楽【燃焼系リフレッシュ&スッキリbody】
著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
辛い食べ物、好きですか?すっごく好きな人と、すっごく苦手な人、はっきり分かれますよね。この「辛味」辛い味って書きますが実は味覚ではないんです。では一体何なんでしょう。
唐辛子の辛味が私たちの身体に与える影響・・解説します。
Contents
唐辛子とは
中南米を原産とする、ナス科トウガラシ属の果実です。「唐辛子」の漢字は、「唐から伝わった辛子」の意味ですが、この「唐」は今の中国のことを指していますが、当時は漠然と「外国」を指す語とされており、南蛮辛子という呼び名もあります。
唐辛子の種類
唐辛子の品種は3000種類以上あるとも言われています。鷹の爪はよく食べられている唐辛子の品種ですが、唐辛子の1品種になります。鳥である鷹の爪部は、先が鋭く尖って少し曲がった鉤爪(カギヅメ)の形をしており、その形に似ていることから、鷹の爪と呼ばれています。
唐辛子の辛味の正体「カプサイシン」
カプサイシンは唐辛子に含まれている辛味成分です。カプサイシン(Capsaicin、C18H27NO3) は、バニリルアミンと脂肪酸がアミド結合したカプサイシノイドと呼ばれるアルカロイドの一種です。カプサイシノイドはナス科トウガラシ属の果実内部の胎座や隔壁に多く含まれます。
唐辛子の辛さ
唐辛子などの辛さの表記に、スコヴィル単位:SHU(Scoville heat units)が用いられることがよくあります。スコヴィル単位とは、純粋なカプサイシン結晶を1600万SHUと表す、辛さや刺激の単位です。1912年に化学者スコヴィル博士が、トウガラシ抽出物の辛みを感じなくなるまで砂糖水で薄めた時の希釈倍率で辛さを表しており、ヒトの舌の感度を使って測定されたものです。
例えば、唐辛子の辛みを抽出した液から辛みを感じなくなるために、砂糖水を100倍の希釈まで加えたならば100 SHU。10,000倍に希釈するまで加えたならば、その唐辛子のスコヴィル値は10,000 SHUとなります。
食品中の平均的な総カプサイシン濃度とスコヴィル値
食品名 | 総カプサイシン濃度3)(mg/kg) | スコヴィル値(SHU) |
ピーマンパウダー | < 1 | 0 – 10 |
パプリカパウダー | 5 – 30 | 100 – 500 |
タバスコソース | 100 – 300 | 1,600 – 5,000 |
ハラペーニョ(生) | 最大500 | 2,500 – 8,000 |
チリパウダー | 1,000 – 3,000 | 30,000 – 50,000 |
その他、日本でお馴染みのハバネロは、いくつか種類があり、スコヴィル値は10万~57万SHU程度のものまで幅があります。
ハバネロの中で最も辛いのが 「ハバネロ・レッドサビナ」 スコヴィル値57万7000SHUという記録を持ちます。因みに「鷹の爪」のスコヴィル値は5万SHUです。
唐辛子の栄養成分
果実生 10gあたり | 果実乾 5gあたり | 粉 5gあたり | |
エネルギー | 10kcal | 17kcal | 21kcal |
タンパク質 | 0.4g | 0.7g | 0.8g |
カリウム | 76mg | 140mg | 135mg |
β-カロテン | 770μg | 850μg | 430μg |
ビタミンC | 12mg | 0mg | 0mg |
食物繊維 | 1.0g | 2.3g | – |
カプサイシンの調理特徴
辛みのカプサイシンは、気体になりにくいため、唐辛子を砕いて粉にしても辛さが減ることはありません。加熱しても壊れにくいので、調理した後も辛みがあります。水には殆ど溶けませんが、油、アルコール、酢には溶けやすく、唐辛子を油や酒に漬け込むとカプサイシンなどの辛み成分が溶け出します。 油によく溶けるので、油に浸したり油で炒めたりすると、辛みがさらに引き立ちます。
唐辛子は種が辛いと思われがちですが、 実際は実のなかで種を支えている「ワタ」のような部分にカプサイシンが蓄積されやすく、特に辛みが強いところです。
辛味は味覚ではない
人間には「辛い」という味は存在しません。 食べ物の味を感じとるのは舌にある味蕾という部分です。この味蕾には、塩味、甘味、酸味、苦味、旨味の “基本五味” を感じとるものであり、辛さを感じ取るものはありません。
辛味は痛みなどと同じような刺激として、痛覚や温度覚で感じ取るものであり、味覚ではありません。
つまり、辛味は味ではなく、感覚なのです。
舌には温点と痛点があり、そこで辛さを感じ取っています。つまり辛さとは熱さと痛みなんです。そのため、温度が高い方がより辛く感じ、低いとあまり辛くないと感じるようになっています。
唐辛子を触った指がヒリヒリしたり、その指で目を触ると、強烈な痛みを感じたりします。そういった痛みが食べることでも舌や脳で感じ、またそこに熱さが加わり、「辛い」と感じます。
ヒトはなぜ辛い食べ物が好きなのか
辛い食べ物には、好きな人、得意な人、嫌いな人、苦手な人・・様々な人がいます。自然界の中で辛味を好む動物はおらず、ラットを使用した実験でも、スパイスの入っている食べ物を避けることが明らかになっています。ところが、ラットに少しずつスパイスを混ぜた食べ物を摂取させ続けると、そのラットがスパイス入りの食べ物を選び始めるようになったという研究がありました。まり、辛い食べ物を食べ続けることで、辛味に対する耐性は変化していくということです。
ヒトは、刺激を求めるもの。
ジェットコースターなど絶叫系に乗ったり、恐怖体験をするお化け屋敷に入ったりすることと同じで、激辛フードも「危険のない痛み」の元、刺激を求めて快楽を得て楽しんでいる状態になります。またその辛み(痛み)を乗り越えたときの達成感を味わっているのかもしれません。慣れてきたら、より強い刺激を求めて、どんどん激辛フードが過激に増していく可能性が高くあります。
カプサイシンのダイエット・美容効果
カプサイシンは摂取すると脳や脊髄などの中枢神経を刺激し、アドレナリンなどのホルモンの分泌を引き起こします。アドレナリンは脂肪分解酵素リポタンパクリパーゼを活性化させ脂肪燃焼を盛んにする作用があり、代謝が活発化することで一時的に熱さを感知して、発汗が促進されます。運動をした時のようにエネルギーを消費してくれるのでダイエットに良いと言われています。
美容効果もあります。血流がよくなり、全身に栄養や酸素が行き届くことで肌のターンオーバーは促進され、クリアな肌を作ります。体の循環がよくなり、血管が若々しいと見た目も若々しく見えます。
参考論文
肥満ラットに対するカプサイシン投与が体重減少とエネルギー消費に及ぼす効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs1983/53/5/53_5_227/_pdf/-char/ja
トウガラシの辛みと痛みとエネルギー代謝
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/43/3/43_3_160/_pdf
カプサイシンは体を冷やす食べ物
暑い夏に辛い物を食べたくなったりします。また、暑い国の人達がスパイスや辛みのあるものを好んで食べます。理由は、唐辛子をはじめとする辛味系スパイスの「発汗作用」が関係しているからです。カプサイシンは、痛みと熱さが関係していると前述しました。
人間の体には、常に体温を一定にするメカニズムが備わっており、暑いときには汗をかくことで、皮膚の熱が放散され、体温の上がりすぎを防ぎクールダウンをしてくれます。そうやって、体温調整をする機能が体に備わっているため、暑い夏でも生きていくことができます。
唐辛子を食べることで、体は、熱さの感覚器が刺激され、熱くなったと勘違いをして、体温を下げるために、汗を大量に出して体を冷やし調整しようとします。しかし、実際は一時的に体温が上がった訳ではないので、体は冷やされます。夏場のクールダウンには上手に活用しましょう。
激辛フードの体への影響
カプサイシンの辛味成分は刺激が強いため、摂取し過ぎると舌が麻痺したり、胃の粘膜を傷つけるなどが起こる可能性が高いため、食べ過ぎや胃腸の弱い方などは控えめにしましょう。 食べ過ぎたり、頻繁に食べることなど、要注意です。 どこまで辛い物を食べると「食べ過ぎ」になるのでしょうか。
日本ではカプサイシンの摂取量について明確な基準は設けられていません。ドイツでは、カプサイシンの摂取量について調査をおこない、基準を設けており、食事における、大人の1回あたりの総カプサイシンの摂取量は体重1㎏あたり5mgまで、体重60kgで300mgという計算になります。キムチ用唐辛子に換算すると、基本的には1本あたり0.06〜0.07mgのカプサイシンが含まれているので4000〜5000本分になります。これは相当の量になりますが、安心せず、自分の体と相談しながら上手につきあいましょう。
おまけ:2種類の辛味成分
辛味成分には、2種類あります。
①「ホット」と表現し、トウガラシのように口の中で熱く感じさせるタイプ。トウガラシ、コショウ、ショウガ、サンショウなど
②「シャープ」と表現し、ワサビ、カラシのように、清涼感をともない、鼻の奥でツーンと刺激するタイプ。ワサビ、カラシ、ニンニク・ネギ・ダイコンなど
最後に
いかがでしたか?ヒトが生きる中で、積み重ねられた食体験の中で、求めるようになった「辛味」。感覚器が影響しているからこそ、中毒性があったり、刺激であったり、本能が求めてしまうんでしょう。
ストレス社会である現代にとって、普段の生活の中で上手にストレス発散になるかもしれません。辛いという痛みの刺激は、ある程度、人間には危険なものと本能は認知しています。そしてその痛みと発汗で思い切り爽快感を得ることができます。これは、運動に似ているかもしれません。運動することで、筋肉に損傷ができ、筋肉痛になったり、思い切り発汗させてストレス発散したり・・そう考えると、辛さの効果がもつ爽快感、高揚感による健康効果も素晴らしいものですね。
しかし、食べすぎは体に負担をかけてしまうものでもあります。そこは上手に体と相談しながら、人生での快楽を求めて頂ければと思います。
農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/capsaicin/syousai/index.html#no1