糖尿病者は果物を食べるべき?

果物

著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
池上淳子

果物は太るのか

糖尿病患者の方や予備軍の方にとって、甘い糖が入っている食品は避けることが勧められていますし、果物は敬遠されがちです。また、甘い果物は果糖が多く太ると言われ食べ過ぎは要注意とも言われます。けれど研究は進められ興味深い様々な報告がでています。糖尿病の方は食べるべきなのか、果物は肥満の要因になるのか、果物を見直すきっかけになれば幸いです。

果糖と血糖値

血糖値を上昇させるのはグルコース(ブドウ糖)です。果物に含まれているフルクトース(果糖)は血糖値を上昇させないと思われがちですが、上昇させます。単糖である、フルクトース(果糖)やガラクトースは肝臓でグルコース(ブドウ糖)に変換されます。その為、フルクトースの摂りすぎは肝臓に負担をかけるとも言えますし、果物を食べると血糖値を上昇させる為、食べ過ぎが懸念される傾向が強くあります。

血糖値

Studies On the Interconversion of Hexoses in Diabetes Mellitus https://www.jstage.jst.go.jp/article/endocrine1927/34/11/34_1236/_pdf

e-ヘルスネット 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-01-003.html

果糖の代謝

果物に豊富に含まれる食物繊維

果物には水溶性食物繊維が豊富に含まれています。水溶性食物繊維の働きのひとつは血糖値の急激な上昇抑制効果です。つまり果物は果糖が含まれていますが、血糖値の急上昇を起こしにくい食品です。糖の吸収を遅くしてくれるため、緩やかに血糖値を上げてくれます。そうすると、インスリンの過剰分泌が起きない為、脂肪の生成が起こりにくくもなります。

食後の血糖値上昇

参考
糖化ストレスとアンチエイジング
https://www.toukastress.jp/webj/article/2019/GS19-26J.pdf
繊維質と食物繊維
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/58/4/58_4_186/_pdf/-char/ja
食事の摂取順序による血糖値への影響 →不溶性にも効果があることが示されている
http://www3.nagasaki-joshi.ac.jp/disclosure/article/ar41/ar41-02.pdf
難消化性デキストリンと血糖値抑制

そういっても、糖尿病患者、予備軍にとって、やはり甘い果物は体に良くないのではないかと懸念されるのではないでしょうか?次に様々な研究報告を見ていきましょう。

果物と糖尿病

糖尿病患者や心疾患患者で行った研究報告があります。

1)糖尿病にかかっていることが分かった人(未治療、食事制限無し)63人
果物を食べる群と食べない群に分けました。
その差は200g程度です。
ヘモグロビンA1cという糖尿病の指標の変化を3ヵ月間観察しました。

結果:
果物摂取軍32人
果物摂取量 194g→319g
ヘモグロビンA1c 6.74%→6.26%(約0.5%減少)

果物制限群31人
果物摂取量 186g→135g
ヘモグロビンA1c 6.53%→6.24%(約0.3%減少)

大差は無かった

2) ハーバード公衆衛生大学院(HSPH)の研究
果物を食べている人は糖尿病リスクが低い。果物をよく食べる人は、2型糖尿病のリスクが低いことが明らかになっている。研究グループは、1984~2008年に18万7,382人の米国成人のデータを調査。登録時に参加者は糖尿病、心血管疾患、ガンの発症はしていなかった。期間中に1万2,198人(6.5%)が糖尿病を発症した。解析したところ、果物を毎週2サービング以上摂取していた人は、月に1サービング未満しか摂取していない人に比べ、2型糖尿病のリスクが23%低下することが明らかになった。

3) 「JPHC研究」は日本人を対象に、生活習慣と、ガン・2型糖尿病・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにする目的で実施されている多目的コホート研究。フラボノイドの豊富な果物をよく食べている人は、心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクが低いことが、45~75歳の日本人8万7,177人を平均13.2年間追跡した大規模調査で明らかになった。研究では、フラボノイド量が100g当たり50mg以上含まれる果物を、フラボノイドの豊富な果物とし対象はリンゴ、ナシ、ミカンなどの柑橘類、イチゴ、ブドウなど。研究グループは、そうした果物の摂取量によって、多い人から少ない人まで5つのグループに分けて、その後の心筋梗塞などの虚血性心疾患の発症リスクを調べた。期間中に1,156人が虚血性心疾患を発症した。解析した結果、フラボノイドの豊富な果物を最も多く食べていたグループでは、虚血心疾患の発症リスクが0.78倍に低下し、摂取量が多いほど発症リスクが低くなることが分かった。とくに柑橘類をよく食べている人は、虚血性心疾患のリスクが低かった。心筋梗塞などの虚血性心疾患の、主な原因となるのは動脈硬化だ。「果物に含まれるフラボノイドやビタミンCによる抗酸化作用が、動脈硬化を抑制し、炎症を抑えることなどにより、虚血性心疾患の発症リスクを予防したことが考えられます」と、研究グループは述べている。シロップ漬けになっている缶詰の果物やドライフルーツはとくに糖質が多いので、なるべく控えた方が良い。フルーツジュースも果糖などを加えて甘くしたものがあるため、推奨できない。

4)果物摂取量と糖尿病の発症率との関連
世界6ヶ国で行われた9つの研究、合計42万人のデータによる。
「約200g~300gの摂取で最も糖尿病の発症率が低いと言える」

2015年の日本人成人の平均的な摂取量 112g/日
ヨーロッパの人たちに比べると低すぎます。
イタリア:372g
スペイン:360g
ギリシャ:274g
ドイツ:223g
デンマーク:173g
オランダ:169g
イギリス:160g
(1990年代後半のデータ)

糖尿病を予防するために果物を今の2倍ほど積極的に食べる方がよいと言える

厚生労働省・農林水産省「食事バランスガイド」では、1日に果物を200g摂取することが目標とされています。しかし、日本人は実際にはこれより少ない量しか食べていません 日本人の60%以上で果物が不足しており、とくに20~40代で摂取量が少ないと言われています。

参考
野菜・果物摂取と糖尿病との関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/2978.html
果物摂取と生活習慣病の予防
https://www.jstage.jst.go.jp/article/eiyogakuzashi1941/61/6/61_6_343/_pdf
Zespri 健康情報ニュースレター
https://www.zespri-jp.com/healthpr/document/newsletter_201806_guideline2017.pdf
健康日本21(第二次)
フラボノイドが豊富な果物の消費とCHDのリス
2型糖尿病のリスク低下につながる果物を丸ごと食べ
果物の消費と2型糖尿病のリスク

果物

果物をジュースで摂るべきではない

100%の果物ジュースが良く売られています。あくまでもこれは嗜好飲料として考えるべきであり、果物の代わりになるものではありません。市販の果物ジュースは食物繊維が取り除かれて、加熱殺菌がされています。生の果物に比べて、食物繊維や生で得られやすい水溶性ビタミン等が大きく失われています。

また、液体をガバガバ飲む事により短時間で大量の糖を摂取する事になり血糖値急上昇が起こります。それに比較して生の果物は、食物繊維が豊富で繊維質な為、しっかり噛んで食べます。ゆっくりしっかり噛む事により脳で満腹中枢が働き、食べ過ぎが抑えられますし、消化酵素もしっかり働いて消化吸収がしやすくなります。多くの機能性が期待出来ますので、生の果物を積極的に食べましょう。

果物を食べない理由

  • 皮を剥くのが面倒である
  • 値段が高い
  • 食事に入らないので、食べなくても問題ない
  • 太ると思うから

など、敬遠されやすい理由が色々あります。

皮を剥くのが面倒である

果物は皮のところに栄養や機能性があります。日本ではリンゴ、キウイフルーツ、ぶどうなどキチンと皮を剥いて食べようとしますが、海外では殆ど皮を剥かずにそのまま食べます。みかんやバナナなど手軽に食べられる果物もたくさんあります。

値段が高い

果物は値段が高い贅沢品ではあります。ただ果物には旬があります。旬の果物を意識して選べば、それほど高価ではなく、一番美味しく食べることができます。

フルーツ摂取

食事に入らないので、食べなくても問題ない

3食の食事に入らないし、おやつでも食べにくい・・いつ食べたらよいのかタイミングがわからない、という意見もよく聞きます。小腹がすいた時にバナナを1本食べるなど果物=スイーツ と捉えるとよいでしょう。また朝食は一番食べやすい食事です。朝食で意識して摂るようにするとよいでしょう。

太ると思うから

記載したように、果物には水溶性食物繊維が豊富で、血糖値の急激な上昇を抑制します。血糖値が緩やかに上がることで過度なインスリン分泌が抑えられ、中性脂肪を作りにくくさせます。安心して摂るようにしましょう。

最後に

食品のもつチカラは、つくづく素晴らしいものだと思います。果物のどの成分がどう効果を示すのか、ついそう考えてしまいがちになります。もちろんそのメカニズムは様々な研究者の努力により明らかにされてきてはいますが、ひとつの食品に含まれる多くの栄養素や成分の相乗効果が体の健康に役立つのだと思います。

関連・参照ページ
うんざりする、健康・栄養情報|成分信仰やめませんか?

果物には旬があって季節感を感じることができます。いちごを食べれば、春の風の温かい風が心地よくなり、すいかを食べると夏がキター!って感激し、柿を食べれば涼やかな気候と共に少し物思いにふける秋を感じ、みかんを食べれば厳しい寒さの冬を感じる。そして通年で周っているバナナやキウイフルーツなど栄養も豊富で値段も手ごろな果物もあります。上手に生活の中に取り入れて、健康フルーツ生活を送りましょう。

すいか

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