肥満と病気のメカニズム【アディポサイトカイン】

メタボのおなか

著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
池上淳子

近年、食の欧米化や運動不足による肥満が増加し、ダイエットへの関心は加速する一方です。肥満は見た目の問題だけではなく多くの疾病の元凶となります。健康を維持する為にも、脂肪と病気の関連について、広く知って頂きたく、その機会になればと思っています。

健診と検診の使い分け

健診と検診、その違いの理解と使い分けについてみていきましょう。

健診とは、健康診査の略で、病気の予防と早期発見が目的の検査のことを指します。主に生活習慣病の改善が目的で、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの発症を未然に防いだり、悪化を遅らせる為に行います。

検診とは、検査と診察の略で、病気の早期発見が主な目的です。病気に罹患していることを知らずに放置すると、重篤化や死に至る確率が高まります。早期発見により、完治出来る可能性があります。病気の発症を減らすのではなく、早期発見する事で治すという事が目的です。この健診と検診を上手に使い分けて、健康維持の為に役立てましょう

健康診断

e-ヘルスネット 厚生労働省 健診
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-093.html
e-ヘルスネット 厚生労働省 検診
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-094.html

生活習慣病とは

生活習慣病は糖尿病、高血圧、脂質異常症などを筆頭に多くの疾病の総称です。生活習慣病に罹患すると治療薬などは無く、対症療法(対症療法は治療ではなく、辛い症状に対応して痛みや不快な症状を取り除く)として服薬が続き、その服薬は終わりがが無いと言われています。薬の副作用もあり、また食事制限や運動習慣など取り組むべきことは多く、身体の不調と常に付き合いながら、制限のある中で生きていかなければなりません。

生活習慣病

e-ヘルスネット 厚生労働省 生活習慣病
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-040.html
対症療法 国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/taishoryoho.html

2種類の脂肪型肥満

肥満とは体脂肪が多い状態を言います。体脂肪が多いことで何故様々な疾病が起こる事になるのかを紐解きましょう。

肥満には皮下脂肪型肥満内臓脂肪型肥満の2種類があり、皮下脂肪型肥満は疾病との関与が低い為、良性肥満と呼ばれています。一方、内臓脂肪型肥満は多くの生活習慣病に関わりを持つ為、悪性肥満と言われています。 メタボリックシンドロームの診断基準では、内臓脂肪の蓄積を必須項目としています。

内蔵脂肪皮下脂肪
引用:NIKKEI Style

e-ヘルスネット 厚生労働省  肥満と健康
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html
e-ヘルスネット 厚生労働省  皮下脂肪型肥満
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-054.html
e-ヘルスネット 厚生労働省  内蔵脂肪型肥満
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-051.html

メタボリックシンドローム(※以下メタボ)の病態と診断基準

メタボ基準

①内臓脂肪蓄積(腹腔内脂肪)
ウエスト周囲径 男性85㎝以上、女性90㎝以上 (内臓脂肪面積100㎠以上)

①に加え②③④の2項目以上

②動脈硬化惹起性リポ蛋白異常
高TG(中性脂肪)血症 150㎎/dl以上 かつ/または 低HDL血症 40㎎/dl未満

③血圧高値
収縮期血圧130㎜Hg以上 かつ/または 拡張期血圧85㎜Hg以上

④インスリン抵抗性(必ずしも耐糖能異常を伴うとは限らない)
空腹時高血糖 110mg/dl以上

他に、高尿酸血症などがあげられますが、今後の検討課題とされています。また、全身性易炎症性状態として発ガンや炎症性疾患の発症との関連付けも注目されています。

e-ヘルスネット 厚生労働省  メタボリックシンドロームの診断基準
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-003.html

アディポサイトカイン (生理活性物質)

脂肪組織はエネルギー貯蔵臓器です。それと共にアディポサイトカインと総称される生理活性物質を放出する内分泌臓器としての役割を担っています。アディポサイトカインには代謝を是正する方向に働く「善玉」と悪化させる「悪玉」の双方があります。

アディポサイトカイン
引用:SGS総合栄養学院

善玉

アディポネクチン:インスリン抵抗性、抗動脈硬化作用

レプチン:脂肪分解亢進、エネルギー消費亢進、食欲抑制

悪玉

TNF-1(腫瘍壊死因子α):インスリン抵抗性誘発

レジスチン:インスリン抵抗性誘発

PAI-1(プラスミノーゲン活性化抑制因子):血栓形成促進

アンギオテンシノーゲン:血圧上昇

各アディポサイトカインの詳しい説明はこちら
【肥満と病気】肥満が引き起こす疾病リスクを解説

内臓脂肪蓄積肥満が病態を引き起こすメカニズム

肥満、内臓脂肪蓄積→アディポサイトカイン産生調節異常(アディポネクチン↓、TNF-α↑、レジスチン↑、アンギオテンシノーゲン↑、レプチン↑、PAI-1↑) →動脈硬化やガン

肥満、内臓脂肪蓄積→酸化ストレス↑ →メタボ(インスリン抵抗性、NAFLD、脂質代謝異常、耐糖能異常、高血圧)→動脈硬化やガン

肥満、内臓脂肪蓄積→門脈血圧FFA↑→脂肪合成亢進→メタボ(インスリン抵抗性、NAFLD、脂質代謝異常、耐糖能異常、高血圧)→動脈硬化やガン

メタボリックシンドローム

内臓脂肪蓄積肥満とアディポサイトカイン

脂肪組織から分泌されるアディサイトカインの異常が内臓脂肪蓄積からインスリン抵抗性等を引き起こすメカニズムとして考えられています。

アディポネクチンはインスリン感受性を改善し、メタボを改善する善玉アディポサイトカインですが、肥満や内臓脂肪蓄積状態では血中レベルが低下し、アディポネクチン受容体が下がります。

レプチンは視床下部において食欲の抑制や、骨格筋などの組織においてエネルギー消費を促進しています。肥満やメタボにおいてはレプチンの血中レベルは増えていますが、レプチンの作用部位である中枢神経において、レプチンの働きが出来にくく、レプチン抵抗性の状態となっている為、食事量の抑制やエネルギー消費の増加がみられないと考えられています。

更に、TNF-α、遊離脂肪酸、PAI-1などの悪玉アディポサイトカインが上昇し、インスリン抵抗性を亢進し、その結果、高血圧、糖尿病、脂質異常症を重ね持つメタボを発症させ、更に動脈硬化を起こすリスクが上がっています。

e-ヘルスネット 厚生労働省 メタボ アディポサイトカイン編
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-02-002.html

アディポサイトカインと メタボリックシンドローム
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/51/6/51_645/_pdf/-char/ja

肥満症とアディポサイトカイン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/4/100_911/_pdf/-char/ja

内臓脂肪蓄積型肥満とNAFLD

内臓脂肪蓄積型肥満に伴う疾患として脂肪肝、胆石症(コレステロール結石)が知られています。内臓脂肪蓄積がNAFLDの発症と関連があると言われています。NAFLDとは飲酒歴が無いにも関わらず、アルコール性肝障害に似た病態で、ウイルス、自己免疫などの病因を除外したものになります。

単純性脂肪肝から脂肪肝炎、肝硬変までを含む概念であり、NAFLDの中の重症病型がNASHです。

NASHはNAFLDの重症型であり、脂肪肝と異なり肝硬変へ進展する疾患です。肝細胞癌の発症に繋がる場合もあります。NASH症例では、CTスキャンにより測定した内臓脂肪面積が増加しており、血中アディポネクチン値が減少しています。アディポネクチンは脂肪組織で分泌されるペプチドホルモンであり、内臓脂肪が蓄積すると逆説的に血中濃度が減少します。内臓脂肪蓄積によるアディポネクチン減少がNAFLDにおける、脂肪蓄積とインスリン抵抗性に関連している事が示唆されます。

BMIとNAFLDの発症に相関関係があると言われています。しかし、ある研究では、BMIが正常範囲内で肥満は無く、糖尿病やアルコール等の関与が無く、原因が不明である症例が全体の20%程あったと言います。

例えば、20代の男性でBMIは正常範囲内かやや痩せ気味で、結婚で食生活が変わり2~3㎏体重が増加、それでもBMIは正常範囲内にあるにも関わらず健康診断で肝機能異常があり、肝生検で脂肪肝と診断される例がよくあると言います。このような症例の時、CTスキャンで内臓脂肪面積を調べると内臓脂肪蓄積が認められる場合が多くあります。このようにBMIは正常範囲で内臓脂肪蓄積がある、という症例が存在します。

NAFLDの複雑な病因と病態
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/1/105_15/_pdf
NASH を考える
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/115/1/115_1/_pdf

日本人の体質と生活習慣病

日本人は人種的に倹約遺伝子あるいは節約遺伝子と呼ばれています。エネルギーを倹約し脂肪を蓄積しやすい遺伝素因を持っています。日本人は飢餓に強いですが、飽食時代は、僅かにBMIが増加するだけで内臓脂肪をためこみ、メタボを発症してしまいやすくあります。欧米に比較してBMI30を超す高度な肥満が少ない日本でも糖尿病、糖尿病予備軍が増加しているのはこういった理由があげられるそうです。

Trends in the Prevalence of Type 2 Diabetes in Asians Versus Whites
https://care.diabetesjournals.org/content/diacare/34/2/353.full.pdf

その他

内臓脂肪蓄積により門脈血を介した遊離脂肪酸の肝臓への流入増加が起こり、その結果、肝細胞でのTG(中性脂肪)合成が促進されます。その一方でアポ蛋白Bと脂質を結合させるミクロソーム中性脂肪転送蛋白活性が亢進しVLDLによる血中へのTG(中性脂肪)の汲み出しが亢進しています。これによりメタボにおける高TG血症の一部を説明できます。

内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性に基づく高インスリン血症は大腸ガン発症のリスクを上げます。インスリンはIGF-1結合蛋白の発言を抑制し、その結果自由なIGF-1分画が増える為に強力な増殖因子であるIGF-1の受容体への結合が促進され、細胞増殖の促進とアポトーシスの抑制が生じるので腫瘍発生に繋がります。

もう一つの説明は、インスリンは増殖因子としての作用があり、高インスリン血症では細胞増殖促進やアポトーシス抑制に傾くことが示唆されてきました。2型糖尿病でインスリン治療を受けている場合、大腸ガン発症のリスクが約2倍になると報告されています。

大腸腺腫症例において血中アディポネクチン値が有意に低下しました。これは内臓脂肪蓄積により血中アディポネクチンが低下したことからインスリン抵抗性が生じた為と思われます。またアディポネクチンはNF-kBのシグナルを抑制する作用があり、低アディポネクチン血症になると炎症が促進され、アポトーシスが抑制されます。その為、内臓脂肪蓄積型肥満は全身性易炎症状態と捉えられています。

メタボのおなか

終わりに

メタボ疾患の裏にはアディポサイトカインの異常が存在します。アディポサイトカインは血管壁に炎症を起こし動脈硬化を起こし、臓器の炎症を介して発ガンに関わる可能性も一部指摘されてきています。

内臓脂肪は、つきやすいが、落としやすい脂肪です。偏った食習慣、生活リズムの乱れ、運動不足等から蓄積しますが、逆を言うと、バランスの良い食事を3食摂り、アルコールや間食などを抑え、早寝早起きなど生活リズムを整え、適度な運動習慣を身につける事で、抑制する事は十分可能です。

バランス食

健康診断の数値が悪くでていても
「まだ病院に行くほどではない」
「好きな事を我慢したくない」
「面倒くさい」など
様々な理由で改善に取り組まない方は多くいます。

それはほとんどの生活習慣病の症状が自覚出来ないことが原因とも思われます。「今、血圧高いな」「今、血糖値上がっているな」とわかることはありません。

自覚は無くても、健康診断の数値が悪化しているということは、病気は確実に体内で進行しています。症状が自覚出来るようになったなら、取り返しがつかない事態まで進行しているとも考えられます。

少しの心がけで、重症予防は十分可能です。メタボにならない為の予防としてもバランスの良い食事や生活習慣、運動習慣を全ての方が身につけて欲しいと願います。

生活習慣病予防 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu/seikatusyuukan.html

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