皮膚の真皮を学ぶ~美肌の鍵を知る第一歩~

著者:池上淳子
管理栄養士/美容食インストラクター
日本ビューティーヘルス協会 会長
Contents
皮膚とは
体全体を覆っている皮膚は「人体最大の臓器」と言われています。面積は成人では1.6㎡、重さは体重の約16%を占めています。柔軟性、伸縮性に富んだ皮膚は多くの役割を担っています。水分の維持、体温調整、刺激や外敵からの防御をもち、感覚器も発達しています。暑い、寒い、痛い、心地よいなどの信号を皮膚から受けることで、私たちは身を守る行動に移すことができます。

真皮とは
皮膚は大きく三層に分かれています。外側から表皮、真皮、皮下組織とあり、ここでは真ん中の真皮層についてみていきます。真皮は英語で「dermis」と言い、表皮の下に存在します。表皮と真皮は基底膜によって隔てられています。厚みは2㎜程度、表皮の10~40倍ほどはあると言われています。真皮の中も三層に分かれています。
①乳頭層:真皮の最上部で、表皮に食い込むように存在していて、毛細血管、知覚神経、細胞成分が豊富にあります。
②乳頭下層:乳頭層のすぐ下に存在していて、内容は乳頭層と同じです。
③網状層:結合組織で、繊維成分が密に存在しています。真皮の大部分を占めており、一番下は皮下脂肪に接しています。まばらに血管や神経があります。構成する主成分の間質成分は大部分が膠原線維から構成されています。その他は弾性線維、細網線維、基質などがあります。

膠原繊維「コラーゲン」
膠原繊維はコラーゲンのことで、真皮の乾燥重量の70%を占めます。煮ると膠「ゼラチン」を生じることから膠原線維と言われています。繊維の走行に沿う張力に対し抵抗が強く伸展性に乏しいため、皮膚の強度に大きく貢献しています。真皮の上層である乳頭層や乳頭下層では細い膠原繊維がありますが、真皮下層の網状層では太い膠原繊維が多く存在します。細い膠原繊維は直径100~500nmで長い構造をもち糖蛋白によって結合してklmnop膠原繊維となります。太い膠原繊維は直径2~15㎜あり線維芽細胞の粗面小胞体でつくられます。「<新しい皮膚科学>引用:初めに3本のa鎖から三重らせん構造のプロコラーゲンが分泌される.分子末端がプロコラーゲンペプチダーゼの作用で切断され,トロポコラーゲンとなる.これらの分子間に架橋ができ,一定のずれをもって重合することで,縞しま模様のある膠原線維が形成される」
コラーゲン生成に影響を与える要因として、生涯でみると思春期、妊娠、更年期、男性更年期などがあります。内因性要因としては遺伝、年齢、民族など、外因性要因としては紫外線、大気汚染、喫煙などがあります。皮膚のコラーゲンは皮膚の土台となるマットレスのような役割で、皮膚のハリや弾力性を維持する重要な役割を持っています。皮膚の主なコラーゲンは I 型コラーゲンで、皮膚コラーゲンの 80~90% を占めます。コラーゲン繊維の直径は通常 3 μm までで、特徴的なコイル構造をしています。コラーゲン繊維は、基本的に小さな原線維の束で構成されています。コラーゲン原線維の直径は約 10~300 nm、長さは数μmです。コラーゲン原線維は、3 本鎖コラーゲン分子の束です (直径約 1.5 nm、長さ約 300 nm)。 この 3 重らせんのコイル構造は、繊維が絡み合うのに立体力学的に有利であり、とてつもなく強固な構造は組織内で長年にわたって持続することができます。

真皮を構成する膠原線維
Ⅰ型コラーゲン:80% 真皮を構成する大部分、長鎖三重らせん構造を有し、皮膚、腱、血管、臓器、骨などに存在します。
II型コラーゲン:主に軟骨に存在、軟骨はガラスよりも何倍も滑らかで、摩擦係数が非常に低いけれど、脆くなく、圧力を受けても割れません。
Ⅲ型コラーゲン:15% 太い線維束を形成しない細網線維、皮膚コラーゲンの約15%を占めます。3つの同一のα1ペプチド鎖からなるホモ三量体です。
Ⅴ型コラーゲン
Ⅳ型,Ⅶ型,17型コラーゲン:基底膜部に主に存在
弾性線維「エラスチン」
弾性線維は皮膚の弾力性をつくる線維です。主成分はエラスチン(elastin)でその周りを細い線維(microfibril:マイクロフィブリル)が取り巻いています。マイクロフィブリルの主成分はフィブリリン(fibrillin)です。弾性線維は顏や頭皮に多く存在しています。真皮以外では動脈や腱など伸び縮みするような組織にみられます。皮膚の長距離変形を容易にして伸縮性を高め、組織が元の形状に戻るための反発力をもたらします。これは皮膚の弾力性と回復力を維持するために不可欠な機能です。網状層では、膠原線維束の間に殆ど均等に存在して皮表に対して平行ですが、乳頭層へ近づくほど線維は細くなって走行は皮表に対して垂直になり基底板に接着しています。脂腺、汗線、平滑筋、神経、血管の基底板にも接合しています。

基質「細胞外マトリックス」
基質は真皮の膠原繊維や弾性線維、細胞などの間に糖やタンパクを含んだゲル状の物質です。主な構成成分は糖タンパク(glycoprotein)やプロテオグリカン(proteoglycan)です。糖タンパクは2〜15%の糖を含んだ分子量15万〜25万の物質で、線維と結合して安定させて皮膚の柔軟性に貢献しています。その糖タンパクの一つであるフィブロネクチンは細胞増殖、分化、創傷治癒などに関わっています。また、血液やリンパ液由来の組織液が基質に含まれて、細胞の活動に必要な物質の運搬や代謝に関わります。プロテオグリカンは、軸タンパクにムコ多糖(glycosaminoglycan:グリコサミノグリカン)が結合した分子量105〜106以上の巨大な分子で多くは線維芽細胞から産生されます。真皮のグリコサミノグリカンはヒアルロン酸とデルマタン硫酸が多くあり、ヒアルロン酸は水分保持に関わり、デルマタン硫酸は線維の支持や他の基質の保持に働いています。高粘度、高吸湿性、低圧縮性という独特の組み合わせが、皮膚の必須水分量の維持を含むグリコサミノグリカンの多くの機能の鍵となっています。
ヒアルロン酸:ムコ多糖類の一種で、1gで6Lもの水(自身の質量の6000倍)を抱え込む驚異的な保水力を持つ成分で、水を大量に蓄えて肌の乾燥を防ぎます。
デルマタン硫酸:ムコ多糖類の一種で、硫酸化多糖(糖の鎖に硫酸基が結合したもの)でコンドロイチン硫酸Bとも呼ばれています。高い保水能力やコラーゲン線維形成への関与、血液循環促進などの生理活性を持つ重要な成分です。
線維芽細胞
線維芽細胞は膠原線維、弾性線維、ムコ多糖を産生する細胞です。膠原線維の中で細長い形をした細胞で散らばっています。膠原繊維を産生して真皮が成熟したら、産生する機能は停止をして線維細胞になります。このような活性は副腎皮質ホルモンや甲状腺ホルモンなどが調節に関与しています。皮膚の80~90%を占める I 型コラーゲンやエラスチン、グリコサミノグリカン(GAG)は線維芽細胞によって産生されます。成人初期から線維芽細胞の活動性が低下し、コラーゲンの生成が年間約1.0~1.5%減少します。これは、喫煙や日光曝露などの外的要因によって更に悪化する可能性があります。

真皮の老化
皮膚の老化には、内因性と外因性のメカニズムがあります。内因性要因は主に遺伝的、ホルモン的変異によります。外因性要因は喫煙、アルコール摂取、慢性的な日光曝露、ストレスなど様々です。外因性要因で老化した皮膚は、しわの形成増加、弾力性の低下、皮膚の脆弱性の増加、メラニン生成・皮膚色素沈着の変化などを特徴とします。
内因性要因:女性ホルモン:エストロゲン濃度の低下と共に皮膚の厚さとコラーゲン含有量の減少が起こることが示されています。閉経に伴う症状は、ほてり、不眠、皮膚の弾力性の低下、皮膚の水分量の低下、静脈瘤、セルライト、認知機能の低下などがあります。閉経期の皮膚のコラーゲン含有量を調べたところ、閉経後15~18年間は、閉経後1年ごとに皮膚コラーゲン含有量が平均2.1%減少し、皮膚の厚さが平均1.13%減少することが観察されました。
外因性要因:日光による損傷、特に活性酸素(ROS)の生成は、皮膚がんと光老化の両方を引き起こす可能性があり、しわ、鱗屑、乾燥、斑状の色素沈着過剰など皮膚に影響を及ぼします。ROSは、DNA、脂質、タンパク質などの細胞内成分に損傷を与える可能性があります。しかし、皮膚はこれら有害な影響を打ち消す防御機構である抗酸化物質が備わっています。この防御機構は非常に効果的ですがその能力には限界があります。特に加齢と共にその力が発揮されなくなり、ROSレベルの上昇とそれに伴う皮膚疾患のリスク増加につながります。このリスクへのアプローチは抗酸化物質を摂ることが重要です。ビタミンC(L-アスコルビン酸)などの水溶性成分、ビタミンE(D-α-トコフェロール)などの脂溶性成分、フラボノイド、カロテノイドなど様々な抗酸化物質種があります。
線維芽細胞の機能低下
皮膚老化の改善は線維芽細胞の活動に依存していますが、時間の経過、摩耗、酸化ダメージ、その他の細胞の影響により、線維芽細胞は老化し、複製能力を失います (複製老化)。線維芽細胞が老化するにつれて、テロメアが減少します。テロメアは染色体の末端にある DNA タンデムリピートであり、細胞分裂の進行サイクルごとに短くなります。老化した線維芽細胞は正常な細胞機能が低下します。その結果、肌はダメージを受けたコラーゲンなどを効率的に修復できなくなり、小じわ、シワ、たるみといった目に見える老化の抑制が出来なくなります。

コラーゲンの機能低下
皮膚のコラーゲンの種類の割合は年齢で変化します。若年の皮膚は約80%がI型コラーゲン、約15%がIII型コラーゲンで構成されています。加齢と共にコラーゲンの生成力は年間約1.0~1.5%低下します。このコラーゲンの減少は、小じわや深いしわの出現に関連する特徴的な兆候の1つです。コラーゲンやエラスチンは、半減期が何年も続く安定したタンパク質であり(皮膚のコラーゲンの1/2は約15年)、そのため長期的な細胞ストレスを受けやすい特徴があります。コラーゲン繊維は時間の経過と共にダメージを蓄積し、正しく機能する能力が低下します。コラーゲンの状態が低下し始めると、皮膚はボリュームと弾力を失って薄くなり、しわができ始めます。コラーゲン生成の減少はヒアルロン酸の損失と同時に起こり、皮膚の水分補給と柔軟性にさらに影響を及ぼします。研究ではコラーゲン含有量は25~34歳でピークに達し、その後徐々に減少し、40年間で約25%減少したと報告されています。
他には終末糖化産物(AGE)、脂質酸化終末産物(ALE)の生成、食事や生活習慣、アルコール摂取、喫煙など様々なリスクがあります。
結論
真皮に存在するコラーゲン、エラスチン、基質、線維芽細胞は生涯にわたって経時老化と光老化のダメージを受け続けます。その為、年齢関わらず、紫外線対策をしっかり行い、機能や代謝の活性化の為に、栄養バランスのとれた食事を摂ることが重要です。整った栄養を摂取することで、皮膚代謝の生化学的・生理学的調整がサポートされアンチエイジング効果を高めることができます。

参考文献:新しい皮膚科学
参考論文:Skin collagen through the lifestages: importance for skin health and beauty

